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奈良彩時記
chi-ka【フリーライター】
学生時代を奈良で過ごす。旅行会社勤務(東京)を経て、現在は大阪府在住。 海外へ行けば行くほど、自分が日本人であることを強く実感。 【旅たびNET】では偏愛する奈良を、また自らのHPでは海外の旅エッセイを綴る。 好きなものは、古代遺跡に美術工芸、雅楽など興味多数。
☆★ selmode cafe(旅エッセイが主のHP)
 
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12月 〜春日若宮おん祭り〜 2000.12.2 update 
三条通りをまっすぐに登りつめると、一ノ鳥居が見えてくる。
春日大社の玄関口。朱塗りの鳥居の両側に、二基の大灯籠を従える。
そこから広がる神域は空よりも濃い。いっぱいに張り出した木々の闇が深く垂 れ込め、参道に足を踏み入れるのを少しだけためらわせた。
ザザッ、ザザッ、暗がりにいくつかの黒い人影。
皆、真っ直ぐにお旅所の先を目指す。音は砂利を蹴るためだ。耳に届く響きに 力づけられて、ようやく歩を進めた。夜道は決して怖くない。しかし、お宮ま で続く参道は、いつもよりとてつもなく長いように感じられた。

◆遷幸の儀
やがて羽音のように聞こえていた声がすっと静かになった。
灯火が消され、うす闇が漆黒に変わった。 「ヲー、ヲー」どこからともなく長く尾をひいた声が聞こえたかと思うと、 被せるように笛の乱声が流れてくる。
何も見えない。灯りもなく、写真の撮影さえ許されない。人々の息遣いだけが ごく近くに、確かなものとして感じられる。

ほどなく物々しさが辺りを包んだ。研ぎ澄まされた闇に、さきふれの警蹕が前 方から湧き上がる。低く這うような神官たちの声。地面を擦りながらやってく る音。満ちてくる間隔。足元から思わず震えがこみ上げる。
いよいよ、ご神体の出御となる。
大松明が参道を撫で、こぼれた火の粉が唯一の光。
白装束の一団が見えたかと思うと、すぐに黒い山となった。十重二十重に囲ま れた山は榊の枝の間に揺れ動き、沈香は一層強くなった。
盛り上がった山の後に道楽を奏する楽人がつき従い、行列は警蹕の声と混ざり 合い、お旅所まで続く。
地の底から這うようなうねり、沈香、警蹕、道楽・・・。
じっと両手を口に当て一団を凝視する。膨らんだ黒山の人だかりは、その中で だけ不思議な大音声を発し続けた。

参道をあけ、石灯籠の外側の隙間から覗き見ていた私の前を、ごっそりと何か が通りすぎてゆく。もはや別の空間となった参道を、オブラートに包まれた群 集が確実に動いていった。音に触発された皮膚が何者かを捉え続ける。
ずっと忘れていた五感の響き。畏れの念、抗えない何か。祭の原初とは、本来 このようであったのかもしれない。鳥肌が全身を覆い、体が小刻みに震えた。

光と闇。お旅所の前には人垣が覆い、かがり火が煌煌と辺りを照した。
ここは神霊をお遷しする清浄な場所。おん祭の舞台。柵に隔てられた境界線は 若宮の神と私たちの距離にも似る。
午前1時。お旅所ではこれから暁祭が始まる。

◆17日・お旅所祭
冬空に高くそびえる二基のだ太鼓。
お旅所の場所に迷ったら、これを頼りに参道を行くといい。
火焔よりもさらに伸びた突端の左に日輪、右に月輪が煌めく。
春日の森は寂としてすべての音を包み込んでしまうのに、この場所だけはすっ ぽりと別の空間にくるまれて、密やかな熱気に満ちていた。

楽の音がひんやりとした空気をふるわせる中、神官の手によって次々に神饌が 運ばれていく。それらは色鮮やかに染め分けられたお米(御染御供)や豆の類 が高く盛りつけられたもので、その形状はといえば、明らかに通常食するもの とは異なっている。

仮御殿はおん祭のために毎年新たに造られる。
本殿と同じ春日造であり、屋根に葺いた松の緑と古色の木肌が素朴さと清新さ を、扉にあたる部分には御簾がかけられ、直接は見ることのできない高貴さ、 特別な存在の象徴を感じさせた。

神事が済むと、一般の参列者にお旅所が解放され、小高い芝舞台の三方は一斉 に駆け出した人波で溢れんばかりになった。
これから還幸の儀がとり行なわれる夜半まで、神楽、東遊、田楽、細男、猿楽、 舞楽、和舞を挟んで舞楽…と種々さまざまな芸能が奉納される。
おん祭が日本芸能の粋、芸能の宝庫といわれる由縁にはこの演能の多さがある らしい。毎年、通うものだけが知る楽しみ。宴の本番が始まる。

◆還幸の儀
舞台の四隅に設けられたかがり火の側では、顔だけは火照り、腰から下は氷水 のように冷え切ってしまう。燃やされる木がはぜるたびに火の粉が舞い、灰が 飛ぶ。鼻先を近づけると、コートには燻された匂いが染み付いていた。
時折、かじかんだ指先を口許で温める。吐く息も一瞬ののちに水蒸気となって 冷たくなる。無駄なこととわかっていても、何度もそれを繰り返さずにはいら れない。長い長い宴も、そろそろ終りに向かい始める。

白煙が立ち上る。瞬く間に舞台が闇に閉ざされた。
神さまが仮御殿に留まることができるのは、1日だけ。日が変わらないうちに 元のところにお還り頂かなければならない。

また山が動く。 濃くなってしまった空気を、辺りにゆるく漂わせながら行列は戻っ
てゆく。 オブラートの残滓に捉えられたまま、人も何となく家路を辿る。 おん祭りの名残は濃い。一度その感触を味わってしまったなら、きっと来年の 同じ日、再びこの場所へと引き寄せられてしまうに違いない。

◆ 春日若宮おん祭り ◆
若宮祭(おん祭)は保延2年(1136)時の関白であった藤原忠通が相次ぐ飢饉 や疫病を憂い、五穀豊穣、国民安寧を祈願して始められたという。 以来、850余年という長きに渡り伝統を守り続け、今日に至っている。 大和国をあげての最大の祭礼は17日。 春日大社表参道の北側に設けられたお旅所に若宮の神霊をお迎えし、時代風俗 を模した行列、田楽、猿楽、舞楽などが奉納される。 これらおん祭の神事芸能は国の重要無形民俗文化財に指定され、単に奈良の祭 というだけではなく、芸能の宝庫としても殊に有名である。
場  所: 春日大社【TEL】 0742-22-7788
日  時: 12月15日(金)大宿所祭
12月16日(土)宵宮詣、宵宮祭、遷幸の儀
12月17日(日)暁祭、本殿祭、お渡り式、お旅所祭、還幸の儀
12月18日(月)後宴能
交  通: JR・近鉄奈良駅下車。
大宿所へは徒歩。餅飯殿通り商店街の中ほど右手。お旅所へは、市内循環バス「大仏殿春日大社前」下車。春日大社、若宮へは、春日大社本殿行きで終点まで。
ポイント: 全てが野外での見学になります。防寒の準備は怠りなく!! 見学に際しては、神事につき写真撮影禁止の場面があります。 指示には必ず従ってください。
■おすすめサイト    ※12月の行事・美術館情報もご参照下さい。
Believe In Snow
おん祭りには欠かせない南都楽人、信雪さんの雅楽サイト。
(初心者にもおすすめ。おん祭り用のページも。)
奈良まほろばネットワークサロン
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